第11話『未来』        担当:初恋双葉

はるか遠くに、星の海が広がっている。
私は透明な球体の中から、そのバラ色を見つめていた。

「綿さん」
いつの間にか誰かが後ろに立っていたらしい、呼びかけられ振り向くと、そこには私と同じ顔があった。ただ、私と違って満面の笑みを浮かべていた。
「カッシェ」
男の目が大きくなる。
「すごいや、初めて会ったのに・・・僕が道化だって分かるんだね」
と言って、くるくると踊りまわる。
「私に解らないことは・・・」
「無い?」カッシェが踊るのをやめ、私の言葉を切った。
「・・・。」
「王子に聞いた。先生に解らないことは無いんだって。この世界にある膨大なデータは、すべてあなたの中に」そこまで言って、突然、彼の目から笑みが消えた。
「だけど、あなたにだってわからないことはある、綿さん。それは未来」

私は彼の瞳を見つめた。私に解らないものが未来なのだとしたら、彼の瞳の奥にあるものはまさしく未来そのもののような気がした。
「シファはもう戻らない。王子は眠り続けてる。未来はどうなる? 先生。」
「私にはどうすることも出来ません」
「ユーミはあなたにしか救えない」
私は息を呑んだ。
自分の罪を暴かれたような、隠していた宝物を見つけられてしまったような気持ちだった。

「・・・なぜ?」
「ほら、あなたにも(なぜ)があった。」
カッシェの顔に笑みが戻る。
「それは、ユーミが先生にとって未来だからだよ。」
「・・・」
私はすべての知識を与えられた存在だ。だが、すべてを知っているのは目の前の道化ではないだろうか。

「ここを出よう」

「え?」
「外へ出るんだよ」
カッシェが私に手をさしのべる。
「しかし、私はここから出られないようにプログラムされている。この領域を出てしまっては、すべてのプログラムが破綻してしま・・・」
私が言い終わる前に、カッシェが私の腕をつかんだ。
「あなたって、ケーキを食べる時は絶対フォークを使うタイプだね。こわれる時は皆一緒さ。僕らは、僕らのやるべきことをやればいい。大事なのは方法じゃない」
その瞬間、透明な球に、ヒビが入った。
そして、私は初めて、外の光に触れた。


「戻るって言っても・・・」
沙穂がキョロキョロと周りを見回す。
「どっちから来たんやっけ?」
夕実の足がピタリと止まる。そういえば、必死で逃げてきたから・・・
「先ほどまでと様子が違うな。扉の位置が変わっている。どうやら建物の構造が周期的に変わるプログラムになっているようだ」プケが小さな目を光らせる。
「え、じゃあどうやって入り口へ戻るの?」
「知らん」
「そんなあっさり!」どうすんのよぉ・・・
チャモが短い足を必死で回転させて行ったり来たりしていたが、一枚の扉の前で止まり、鼻をひくひくさせた。
「こっちから、キミドルの匂いがします!」
まじで? 動物並みの嗅覚! てか、確かに今は豚だけどね。
「よし、行こう!」
意を決して扉を開けると、そこは・・・

「・・・え?」
私の後ろから、沙穂が顔を出す。
「あっ!? 星の砂公園やん!」
沙穂が飛び出していく。
そう。そこは、いつも通っていた、あの公園だった。
砂場に一歩踏み出す。間違いない。あの滑り台もブランコも、見慣れた景色として頭の中に残っている。私は座り込んで、砂をすくってみた。乾いた粒が、指の間からさらさらと零れ落ちていく。
「罠かもしれない、戻れ!」
扉の方からプケの声が飛んできた。
だが、もう遅かった。振り返ったときには、扉の向こうにいるチャモとプケの姿は半透明になり、やがて扉は跡形もなく消えた。
「・・・え、ちょっと。チャモ?」
腕で扉のあった空間を探るが、本当に何もなくなっていた。
見えるのは夕暮れの公園だけだった。
「消えちゃった・・・」
「夕実」
呆然とする私の背中に、沙穂が話しかける。
「消えちゃった、どうしよ沙穂、消えちゃったよ!」
振り返った私の形相に、沙穂が小さな目をまん丸にした。
「何が?」
え? 何がって、チャモにプケに、それに扉・・・
あ。

私は沙穂の姿をまじまじと見つめた。
違う。さっきまでの沙穂と、何かが変わっている。
そうか、服装だ。上着が、さっきまでの赤いラインジャージじゃない。
ピンクのファーコートを着ている。
「沙穂、いつの間に着替えたの?」
「は? 何?」
「さっきまでジャージ着てた」
「何それ? て言うか、こんなとこで一人で何してんの? もう先輩にチョコ渡した?」
「・・・チョコ?」
「まさか、また自分で食べたんちゃうやろな?」
「何、何言ってんの? 沙穂」
沙穂が呆れ顔で私を見る。
「なーんや。今度こそ本気か思たのに、あほらし。普通、バレンタインチョコ自分で食べる? あんたには一生、チョコより好きな男はできへんな。」
「何言ってんのよぉ、沙穂ぉ?」訳がわからなくて、泣きそうになる。
「あー、泣くなって。・・・ひょっとして、振られたんか?」
「違う!」
「ちゃうんかい。ほな、心配ないな。うち今からデートやから。またな」
ピンクの背中が遠ざかっていく。

どういう事? 私は足元を見つめた。・・・私、こんな靴履いてたっけ?
よく見ると、私もさっきまでのパーカではなく、水色のダッフルを着ていた。
頭がこんがらがって、何が本当なのかわからない。
途方にくれ、私は空を見上げた。
紅から青紫に変わりつつある空に、星が静かに灯り始める。
「星・・・が、見える・・・」

突然、あの人の涼しい瞳を思い出した。
そうだ。何としても、私はあの人にもう一度会わなきゃ。
扉が消える前、プケが「罠かも」って言ってたっけ。
沙穂のことも・・・また、何かの操作をされてるのかもしれない。
誰がこんな事してるのか知らないけど、私のこと、あんたの好きにはさせないんだから。
「そういえば、あの扉の中では時間が早く進むって言ってたっけ・・・」
あ! さっき沙穂、バレンタインがどうとか言ってたような。
そうそう。チョコって言ってたよね。じゃあ、今日は・・・
「2月14日だ。」
公園の時計は、ぴったり18時。
とりあえず、押入れまで戻ってみよう。まだ、あの世界への入り口があるかもしれない。
私は、猛スピードで部屋へと戻った。
息を切らせてドアまでたどり着くと、ポケットに手をつっこんで鍵を探す。
と、何か硬くて小さいものが指に触れた。
何、これ・・・
静かにそれを取り出してみる。

「あ」
それは、青く光る、ロケット型のビンだった。

                                        つづく


第11話担当:初恋双葉のコメント
いやぁ、お待たせしました。やっとアップできました。
なんだか色々とワープしたり、大変なことになってますな。
???ややこし!てな感じですが、頭を柔らかくして、
細かいことは気にしないで(笑)楽しんでください。
とりあえず、話を最初まで戻したぞ!
これ以上変な方向に行かないことを願いつつ・・・ZZZ


第12話の担当:誰やっけ?(笑)←チャムです


第10話はこちら