最終話 『あなたがいる星』 担当:うみみ
深夜の星の砂公園へ青いビンを握りしめて向かう。
今は月が雲で隠れて星がちらちらと輝く。
これから何が起こるか分からない。自分が何者かも分からない。
でも一歩一歩、公園に向かって。
ただ、はっきりしているのは、ずっと変わらない気持ち。
公園に入ると、ジャングルジムはなかった。
でも2月だというのに不思議と寒さは感じない。やはり何かが影響しているのか。
時計は11時58分。
あと少し。私は公園の真ん中に立って目をつぶってみた。
その時。
「夕実さあああん!!」
聞きなれた慌しい声。
振り返ると黒豚のチョモと金魚のプケ、そして沙穂が公園の入口から走ってきた。
「え?なんで?」
もうたいがいのことでは驚かないけれど、まさか来てくれるとは思ってなかった。
「どうして?だって沙穂は…」
3人とも息をはずませて、私を見る。そして、笑った。
「お待たせしました」
「…なによ、厳かに一人で立ち向かおうと思ってたのに」
それまで静かだった心が動く。安心する…。いろんなことが起こりすぎて感情が麻痺して
いたんだ。
涙が出そうになるのを必死で我慢して下を向いた。
「なんで来たのよ」
「えーっと、まあとにかく、なんとか頑張って来ました」
「そうじゃなくて…。って、頑張ってって何よ」
「えーっと、説明すると…」
「そんな時間はないぞ」
プケが空中を泳いできて私を覗き込む。
それでも私がずっと下を向いていると、沙穂が私の肩を強く掴んだ。
「夕実。うちはな、何も覚えてへんし何も知らんのよ」
「え?」
「でも、こいつらが…。まあとにかく、うちは夕実が困ってんねやったら力になるから。
頑張ってんやったら側におりたいから、だからうちは来てん」
なんてこと言ってくれるんだろう。…だめだ。涙が溢れ出す。私は、なんて幸せ者なん
だろう。
「まだ、クライマックスではないぞ」
プケが冷静な声で言う。そうだ、これからなのに。
「あっ、夕実さん。今何時ですか?」
チョモの声に私は腕時計を見る。2つの針がちょうど重なった。
強い風が吹いた。
雲が流されて満月が現れる。公園が照らされる。
そして…、ジャングルジムが現れた。
何度となく見てきたジャングルジム。そこに、人がいた。4人の男の人。
「ニシカワさん…」
一番上に座っているシファ。その横に無表情の綿さん。カッシェはジャグリングをしな
がら腰掛けている。そして、…眠っているニル。
ああ…、ずっと会いたかった彼がいる。私の前にいる。
私が手を伸ばしてニルに触れようとすると、その前にキミドルが入り込んだ。
ジャングルジムの側に控えていたようだ。
「よく来たね。夕実」
シファが重々しい声で喋った。
「1人で来て良かったんだがね」
「あ、なんかやなやつ」
沙穂が私の側に来て言う。チョモとプケも私の横まで来て、キミドルと向かい合った。
しかしキミドルは4人の圧力などなんともない、という感じで静かに言った。
「ビンは、お持ちですか?」
「持ってきたよ」
私はずっと握り締めていた青いビンを差し出す。ロケット型の青いビン。
少し見つめて、キミドルに渡そうとした時、
「待って、夕実」
沙穂が止めた。
「なんか知らんけど、それって切り札とかちゃうの?渡す前に取り引きとかせんでええの?」
そうか…。でも切り札?取り引きって言われても…。
「んー、よく分からないの」
「なにっ」
声を荒げる沙穂にシファが笑った。
「取り引きだなんて。返してもらうだけですよ。ご友人さん」
「これはあんたの物なん?」
「私たちの物です」
「私たち?」
沙穂の問いにシファがゆっくりと立ち上がった。
「私たち4人と…」
思わせぶりなシファの言葉にキミドルが動く。
「そしてユーミ」
「え?」
キミドルが眠っているニルの後ろから誰かを引き出した。それは…。
「夕実?」
「夕実さん!」
そこには私にそっくりな女の子。
そうか…、クローン…。思わず綿さんの方を見ると、綿さんはゆっくりうなずいた。
「君には迷惑をかけたが、ユーミは私たちのもとに帰ってきた。あとはもう星へ帰るだ
けだ」
シファはキミドルが連れてきたユーミを、恋しそうに見つめた。
「夕実さん、どういうことですか?」
チョモが私の手を引っ張った。
「あれは私のクローンで、ユーミの魂はあの体に…」
…本当にそうなのかな?もともと私の中にユーミはいたの?私は何かが変わったの?
黙りこんだ私を3人は心配そうに囲む。そこにキミドルが戻ってきた。
「そういうことで。ビンを返してもらいましょう」
キミドルの目は冷淡だ。何を考えているのか分からない。
どうしていいのか分からなくてニシカワさんの4人を見る。
このビンを渡せば全てまるく納まるのかな。ユーミと一緒に星に帰って…。
「さあ」
キミドルが促す。私はビンを渡すために手を差し出した。
「僕がもらうよ!」
その時、今まで黙っていたカッシェが飛び跳ねて、私の前に下りてきた。
「カッシェさま」
遮ろうとするキミドルを無視してカッシェは「いいでしょ?」とシファを振り返る。
「ああ」
どちらでも良いという感じでシファは答えて、またユーミに目を戻した。
「いけません」
なおも立ちふさがるキミドルを押しのけて、私の前にカッシェが立った。
おどけた表情の中に強い眼差し。
私たちはしばらく見つめ合った。何かを感じる。何かきらきらした…。
カッシェはにこっと笑ってそっと私の右手を包み込んだ。そして
「ユーミ」
静かに、でも確かにそう呼んだ。それも一瞬、
「ありがと」
カッシェは青いビンを受け取ると、また踊りながらジャングルジムへ戻っていった。
ビンをくるくる回しながら。
「カッシェさま!それは大事な物なのですよ!」
キミドルの警告も無視して、ジャグリングのボールと同じように回している。
くるくるくるくるくる。
青いビンが、…青い光がくるくるくるくるくる…。
「おかしいよ!」
考えるより先に言葉が出た。
「おかしいよ。これでいいわけないよ」
いきなりの言葉にみんな驚いている。
「夕実?」
「だって、何がとかそんなの分からないけど。でもなんで、なんでニルは眠ってるの?
全てうまくいって帰るんならニルは?ニル。あなたは誰?ユーミ?本当に?」
文章としては成り立ってないけど感情が溢れ出した感じだった。
「何を言っているんだ。ユーミはここにいる。一緒に帰るんだ」
シファがユーミを抱き寄せた。でも…
「違うよ」
そこにいるのに。こんなに側にいるのに…。
私は確かめるようにニルに触れようとした。
「やめろ!」キミドルが慌てて止めに来る。そのキミドルを3人が止めてくれた。
「夕実、行けー」
私を信じてくれてる沙穂の言葉。
私は、ニルの側へ、ジャングルジムの中へ入った。
フラッシュバック。
世界が回った。
くるくるくるくる。青い光。赤い光。風。音。誰かの声。
「ユーミ、ごはんよ」
「ほら、チョコの時間だよ」
「おいで、ユーミ」
お父さん、お母さん、海で遊んだ日々、笑ってる少女、緑に包まれたあたたかな家…。
これは。私。
愛されて育った、4人と一緒に旅に出た、
「ユーミ、お前のパートナーだよ」
私はユーミ。
ニシカワさんが回りにいた。透明な世界の中に。
ジャングルジムの外はもやがかかったように幻想的。
ここは、私がいた場所だ。
「綿さん…、カッシェ、シファ、…ニル…」
4人はそれぞれ私と一緒にいようとしてくれて。
「おかえり、ユーミ」カッシェが抱きついてきた。懐かしい香り。
「ユーミ、ありがとう」
綿さんが優しく見つめる。
「な、んだと…?」
もう一人のユーミを抱いたシファは震えていた。
「どういうことだ。ではユーミは。このユーミは」
「幻です」綿さんが諭すように言った。
「え?」
「プログラムなのですよ」
シファに抱えられたユーミは、今は目を閉じてぐったりとしている。
「だましたのか?」
「いえ、あなたの望むままにしただけです。ただ…、私はユーミに期待したのかもしれ
ません。本物のユーミに」
「そんな…」
「シファ、もう大丈夫だから。…ごめんね。帰ってくるのが遅くて」
私の言葉にシファは崩れ落ちた。
「そんな…。では私のしようとしていたことは…」
「…夕実?」
外から沙穂の声が聞こえた。もやのかかった世界。でもあれも現実だ。
私が外へ出ようとすると、シファが腕をつかんだ。不安そうな目。
「すぐ帰ってくるから。もうどこにも行かないよ」
シファが放してくれるまでじっと待った。長い空白の時間を埋めるように。
「どうなったんでしょう。大丈夫でしょうか」
わたわたと動き回るチョモをプケがぺしっと叩く。
「うるさい」
「でもでも中が見えなくなったし」
「うるさいなあ。まだちょっとしか経ってへんわ」
キミドルを捕まえていることに疲れながら沙穂が言った。と言っても、もうキミドルは
おとなしくしているのだが。
その時、今は白い光に包まれているジャングルジムから夕実が出てきた。
「夕実!」
キミドルをほったらかして、3人は駆け寄る。
「大丈夫ですか?どうなったんですか?」
「シファは?」
「夕実、無事?」
同時に聞いてくる3人を、まあまあと夕実は落ち着かせる。
全て、いとおしいな…。
「あのね」
失くしたくないな。
「私はね」
もう、忘れたくないな。
「私はユーミなの」
「…え?」
一瞬の間のあと、チョモが喜びまわった。
「思い出したんですか?全部?思い出したんですね」
「うん」
「良かった。やったあ」
「任務完了だ」
一気に幸せムードになる2人に沙穂は取り残されている。
「え?なに?ゆうみ?」
今までのこと、覚えてないんだもんね。どうやって説明しよう。
「あのね、沙穂。えっと…、簡単に言うと、ユーミは私の前世なの」
「…は?」
「昔、私はユーミっていう名前で、星からあの4人と一緒に、あのジャングルジムに
乗って旅に出たの」
「…はあ」
「で、事故に会って、私の体は死んじゃったの。でも魂は生きてたの」
「まあ、魂やからなあ」
「んで、その魂が見つけた体が私」
「え」
「だから私は今、夕実とユーミなの」
自分で言っててこんがらがってくる。
「2人おるってこと?」
「うん。でも1人なの」
「二重人格ってこと?」
「ううん。ユーミと夕実は同じなの。夕実は、ユーミのために生まれてきたの。だか
ら、だから私、帰るね」
「え?」
「星に帰る」
「…地球人じゃないとは思ってたけど…」
呆然としていた沙穂が、はっと目を開いた。
「夕実が、もういなくなるってこと?」
「星に帰るだけ」
「ここからいなくなるんやろ?」
「うん、まあ」
「うん、まあって!!」
沙穂が激しく私を揺さぶった。
「勝手にそんなこと決めんなや!まあって。なんでよ。夕実として生きてきたんやろ。
簡単に星に帰るとか言うな!そりゃ、あんたの人生やけど!でもうちは…」
「沙穂」
「うちは…。あんたが頑固なことも知ってるし…。いっつもまっすぐ感じて生きてく
ことも知ってる」
沙穂の涙、初めて見た。私だって離れたくないよ。思わず沙穂を抱きしめた。
「沙穂、ごめんね」
「謝るなら行くな」
「やだ」
「ばかやろ」
ずっとみんな側にいれたら…。
「あ、沙穂も一緒に行くってどう?」
ぎゅっと力を込めて沙穂が私を引き離して笑った。
「…うちは地球人やからな」
「ユーミさん、こいつどうしましょう」
チョモが棒立ちになっているキミドルを指して聞いた。
「蹴りましょうか、このっ、このっ」
「弱者には強気だな」
「こら豚、男らしくないぞ」
賑やかな雰囲気が戻ってくる。
「最後の仕事をしなくっちゃ」
私はキミドルに近づくと、首の辺りを探った。
「ユーミさん?何してるんですか?」
「この人はね、ニルの優しさなの」
あった。首の後ろに小さなボタンみたいなもの。
「帰ろうね」
キミドルに声をかけて、カチッとボタンを押した。
しゅわーーーー。
まるで忍者が消える時のような煙が立ち込める。
「ごほっごほっごほっ」
「なんやこれー」
煙が風に連れ去られた時、キミドルの姿はもうなかった。
「え、忍者?」
「キミドルもプログラムだったのよ。ニルが作った」
それは優しさだ。私はジャングルジムを振り返った。
さっきまで光に包まれていたジャングルジムが、元の姿に戻った。
ニシカワさんがいる。
そしてニルは、立っていた。
全ての始まりのあの日と同じだ。
「ん?なんかデジャブ」
沙穂が首をかしげる。
いつか沙穂も思い出すことがあるのだろうか。
「行きましょう」
チョモとプケが飛び跳ねてジャングルジムへ向かう。
「おい、挨拶なしかいな」
「さよならー、沙穂さーん」
「あっけな」
沙穂が呆れて2人を見送った。
私も沙穂ともう一度向き合う。
「じゃあ、沙穂」
「…うん」
「元気でね」
「夕実もな」
「会いに、来るから」
「…3日に1度な?」
「…頑張る」
私はもう一度沙穂を抱きしめた。
絶対忘れない。
そしてジャングルジムへ向かう。
ずっと感じてた。会いたい。この気持ちだけは変わってない。これからだって変わらない。
一緒に生きていこう。
私はニルを見上げた。
「何か、見えるの?」
彼がゆっくりと懐かしい笑顔を向けて言った。
「星が見えます」
おわり
最終話の筆者:うみみのコメント
終わった…。長かった…。
どんだけかかってんでしょうね。このコーナー。
大変お待たせいたしました。って、もはや読んでくれている人いないような。
とにかく書き上げましたぞ。
過去やら次元やら行ったり来たりした話でしたが、よく読むとほとんど何も進んでないのだよね(笑)
一話前のぷかさんに感謝でした。だだだっとまとめてもらって。
さて、チョコとかパフェとか溜まっている劇団員はちゃんと食べさせてくれるのかな。私だけ期限破ってないもんねー(笑)
んで、最終話も書いてくれるのかな。
私はどうしてもこんな終わり方にしちゃうから、他の人がどれだけ違うの書いてくれるのか楽しみです。(プレッシャーか?)
いやいやしかし、考え方の違いとか世界の違いがはっきり分かったのは面白かったね。
それが同じ劇団で同じ芝居をしているのだから、インタレスティング!はっはー。
てなわけで、リレー小説、うみみ版終了です。
ご愛読、ありがとうございましたー。