最終話 『おかえりなさい』 担当:お昼寝ぷぅか
年が明けた。
彼女がいなくなってからもうすぐ1年になる。
いや、1年になっている。
気づいたらそんなに経っていた。
一週間前にふと彼女のことを思い出した。
そして振り返ってみるともう1年近くも姿も見ていないことや連絡を取っていないことに気がついた。
明確な理由もないというのに1年近くの彼女の不在を自分が自然に受け入れていたという事実に違和感を感じる。
学校で彼女と共通の友人に彼女のことを尋ねてみたが、誰に聞いても最初から彼女のことを知らないような返答しか返ってこなかった。
まるでわけがわからない。
……。
あ、一つだけ心当たりがある。
そういえば、彼女と一緒に変な連中に連れられて宇宙とかいろいろ変なとこに行った覚えがある。
こんな不思議なことをできそうなヤツは、あの連中かあの連中の関係者とみて間違いないだろう。
とはいえ、どうやってあの連中を問いただそう。
あの変な連中に関係する場所といって思いつくのはそう多くはない。
彼女の家の近くの公園か彼女の部屋。
そこに行けば何かの手がかりがあると思い、星の砂公園に向かった。
見慣れた公園が見えてきた。
まん丸の月が頭の上にある。
何を考えるでもなく、彼女が不思議な世界に巻き込まれるきっかけとなったジャングルジムの方へ足が向かった。
ジャングルジムの格子を抜けて月の光が地面に降り注いで……
……いない。
ジャングルジムの下の影はインクをこぼしたように真っ黒だ。
ジャングルジムの位置に何か大きなものがある気配を感じた。
不審に思って見ているとジャングルジムはジャングルジムには見えなかった。
滑らかな曲線を描いた壁が目の前に立っている。
少し下がって離れたところから見上げてみると、月明かりに大きな卵が浮かび上がっていた。
そのまま、卵から距離を取りつつ回り込んで歩き出す。
半周ほど回ってみると、卵の一部が光っている。
よく見ると卵の殻に割れ目がある。
そこに彼女が、いた。
その割れ目に向かってゆっくりと近づいていった。
目が合った。
彼女は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにふわっとした笑顔に変わってその口が動いた。
「ただいま」
あれほど一発どついてやろうと思っていたのに、その笑顔を見てどうでもよくなった。
「おかえり」と口に出かけた。
それでもヤツを甘やかすのはよくないと思い、ちょっと高圧的に言ってやった。
「あんた、どこ行ってたん?1年も。」
ふざけたことを言ったら絶対に許さないからという気持ちを込めたつもりだったが、ちょっと声が裏返った。
それでも言い訳があるなら聞こうというつもりで彼女が何か言うのを待とうとした。
けれど待てなかった、自分の意志に反して、いや従って?とにかく口から自然に言葉が滑り出した。
「おかえり」
予想外に声が弾んだ。
ちょっと悔しい。
いや、もうどうでもいいや。
私はそこで立ち止まった。
彼女が周りを見回す。
よく見ると彼女の周りに誰かがいるようだ。
彼女はその誰かに何か一言言うと、こちらに向かってまっすぐに歩いてきた。
あと5歩というところで彼女がつぶやく。
声はとどかなかった。
しかし、彼女が何を言ったかははっきりとわかった。
「ふられちゃった。」
…全然つながっていないけれど、要点だけは理解できた。
「そっか、とりあえず今日はうちんとこおいで。」
明日も平日だけど、一瞬考えただけで体調不良になることに決めた。
ごめんなさい職場の人たち。
「うちにこんだけ心配かけたからには、何してたんかちゃんと白状してもらわんとな。」
彼女は笑ってうなずいた。
まだ夜は長い。
そして、うちに帰るために二人で歩き出した。
少し歩いたところで、彼女がついてきていないことに気づいた。
ふと振り向くと彼女は立ち止まって後ろを見ていた。
彼女の向こうに見えるジャングルジムはジャングルジムだった。
きっとまたぐだぐだ考えてるんだと思い、いらついた声を作る。
「ちんたらしてたらおいてくで、夕実」
振り向いてこちらに走ってくる彼女の笑顔は月明かりの下、見たこともないくらい大人びていた。
おしまい
第14話の筆者:お昼寝ぷぅかのコメント
こっそりと。
打ち切りのマンガとかアニメみたいな展開です。
て、前回も同じような事書いた気がします。
打ち切りの王道として、「俺たちの戦いはこれからだ」とか「そして○年後」とか「とりあえずダイジェスト」とかがあるのですが、今回は2番目かな。
まぁ、あとちょっと裏ワザ。
ほら、これまで通り夕実視点だと全部書かないといけないし。
卑怯者だ。
そんなわけで、ここまで読んでくださった方(いるのか?)ありがとうございました。